「金継ぎを始めてみたいけれど、どんな素材や道具を揃えればいいのかわからない」。そんな声をよく耳にします。
金継ぎは、割れた器を漆で接着し、継ぎ目に金粉を蒔いて美しく仕上げる日本伝統の修復技法です。しかし、いざ始めようとすると、
本漆と合成漆の違いや
金粉の種類など、素材選びの段階で迷ってしまう方が少なくありません。
素材選びを間違えると、仕上がりの美しさだけでなく、食器として使う場合の安全性にも影響します。だからこそ、最初にしっかりと素材の特徴を理解しておくことが大切です。
私たちいとをかし編集部では、実際に複数の金継ぎ素材を試した経験があります。この記事では、
金継ぎで使う漆・金属粉・道具について、それぞれの特徴・費用・選び方を、初心者にもわかりやすく解説します。
金継ぎの接着素材|本漆と合成漆の違いと選び方

金継ぎで最も重要な素材が
漆です。漆は器のひびや割れを接着し、修復部分の土台となります。大きく「本漆(天然漆)」と「合成漆(簡易漆)」の2種類があり、それぞれ特徴が大きく異なります。
ここでは、両者の違いを詳しく比較し、用途に合った選び方をお伝えします。
本漆(天然漆)|伝統的な金継ぎの主役
本漆は、ウルシノキから採取した天然の樹液です。金継ぎの伝統的な素材であり、数百年にわたって使われてきた信頼性の高い接着剤です。
本漆の特徴を整理します。
| 項目 |
本漆の特徴 |
| 強度・耐久性 |
非常に高い。正しく硬化すれば半永久的に使える |
| 食品安全性 |
完全に乾燥・硬化すれば食品衛生上も安全 |
| 乾燥条件 |
湿度70〜80%・温度20〜25℃の環境が必要(ムロを使用) |
| 乾燥時間 |
各工程で数日〜1週間。全工程で1〜3ヶ月 |
| かぶれリスク |
あり。初めて触る場合は必ずゴム手袋を着用 |
| 価格の目安 |
10g単位で1,000〜3,000円程度 |
本漆は、
食器として長く使い続けたい器の修復に最適です。強度・耐久性・安全性のすべてにおいて、合成漆を上回ります。ただし、かぶれのリスクと、乾燥に特殊な環境が必要な点は、初心者にはハードルが高く感じられるかもしれません。
私たちも本漆を使った金継ぎを実際に体験しましたが、漆が少しずつ固まっていく過程を見守る時間には、器と向き合う特別な感覚があります。
合成漆(簡易漆)|初心者でも扱いやすい代替素材
合成漆は、本漆に代わる合成樹脂系の素材です。「かぶれにくい漆」「エポキシ系金継ぎ素材」などの名称で市販されており、初心者向けのキットに多く使われています。
| 項目 |
合成漆の特徴 |
| 強度・耐久性 |
本漆よりやや劣る。日常使いには十分だが長期は注意 |
| 食品安全性 |
製品による。必ず「食品衛生法対応」を確認すること |
| 乾燥条件 |
常温・通常湿度で硬化する製品が多い。ムロ不要 |
| 乾燥時間 |
数時間〜1日程度。全工程で1〜3週間 |
| かぶれリスク |
低い。敏感肌の方は手袋を推奨 |
| 価格の目安 |
キット形式で2,000〜10,000円 |
合成漆は、
初めて金継ぎに挑戦する方や、観賞用の器を修復したい方に適しています。乾燥時間が短く、特別な環境も不要なため、自宅のテーブルで手軽に始められます。
ただし、修復した器を食器として使い続けたい場合は、必ず
「食品衛生法対応」と明記された製品を選んでください。非対応の製品で修復した器に食品を盛るのは避けましょう。
本漆と合成漆の比較まとめ|用途で選ぶのが正解
| 比較項目 |
本漆 |
合成漆 |
| 食器として使う |
最適(安全性・耐久性ともに高い) |
食品衛生法対応品に限り可 |
| 観賞用・装飾用 |
もちろん可 |
十分な品質 |
| 初心者の練習用 |
ハードル高め |
おすすめ |
| 大切な器の修復 |
最適 |
プロに本漆修復を依頼が安心 |
結論として、
初心者はまず合成漆のキットで練習し、食器として長く使いたい大切な器は本漆でプロに依頼するのが最も現実的な選択です。
仕上げ素材|金粉・銀粉・真鍮粉の種類と選び方

金継ぎの仕上げに使う金属粉(蒔絵粉)は、器の継ぎ目を美しく飾る大切な素材です。色や光沢が異なる複数の種類があり、器の雰囲気に合わせて選ぶことで、修復後の印象が大きく変わります。
金粉(真金粉)|最も伝統的で華やかな仕上げ素材
金粉は、金継ぎの名の由来にもなっている最も伝統的な仕上げ素材です。純度の高い金から作られ、黄金色の美しい輝きが特徴です。
金粉にはいくつかの種類があります。
-
丸金粉:光沢が強く、華やかな仕上がり。特別な器の修復に最適
-
消し金粉(金消粉):マットな質感。落ち着いた印象で和食器との相性が抜群
-
平目金粉:平らな形状で広い面を塗るのに適している
金粉の価格は、
1gあたり5,000〜15,000円程度と高価です。しかし、金継ぎで使う量は器1点につき0.1〜0.5g程度のため、一度購入すれば複数回使えます。
食品安全性の面では、
純金粉は安全です。金は人体に無害な素材であり、食器に使っても問題ありません。
銀粉|モダンでクールな仕上がり
銀粉は、白銀色の輝きが特徴の仕上げ素材です。金粉に比べてシンプルでモダンな印象になるため、洋食器や現代的なデザインの器との相性が良好です。
- 金粉よりも価格が手頃(1gあたり2,000〜5,000円程度)
- クールでスタイリッシュな印象を与える
- 経年変化でやや黒ずむことがあるが、それも味わいになる
銀粉は、
白い磁器や青い釉薬の器に使うと、コントラストが美しく映えます。
真鍮粉|練習用に最適なコストパフォーマンス素材
真鍮粉は、銅と亜鉛の合金から作られた金属粉です。金色に近い色味を持ちながら、金粉よりも大幅に安価なため、練習用や日常使いの器の修復に適しています。
- 価格は金粉の10分の1以下(10gあたり500〜1,000円程度)
- 金色に近い見た目だが、時間とともにやや変色する
-
食器には不向き(銅が含まれるため、食品に触れる部分には使わない)
真鍮粉は練習段階で技術を磨くのに最適です。
技術が上がってから大切な器に金粉を使うという段階的なアプローチがおすすめです。
金属粉の選び方まとめ
| 素材 |
色味 |
食器使用 |
価格帯 |
おすすめ用途 |
| 金粉(消し金粉) |
落ち着いた金色 |
安全 |
1g 5,000〜15,000円 |
大切な食器の本格修復 |
| 金粉(丸金粉) |
華やかな金色 |
安全 |
1g 8,000〜20,000円 |
特別な器・贈り物用 |
| 銀粉 |
白銀色 |
安全 |
1g 2,000〜5,000円 |
モダンな器・洋食器 |
| 真鍮粉 |
やや赤みのある金色 |
不向き |
10g 500〜1,000円 |
練習用・観賞用 |
器の色・素材・用途に合わせて選ぶのが基本です。白い磁器には金粉や銀粉、素朴な土感のある陶器には消し金粉がよく合います。
金継ぎに必要な道具一覧|基本セットと乾燥環境の準備

素材と合わせて、金継ぎには専用の道具も必要です。ここでは、基本的な道具と、本漆を使う場合に必要な乾燥環境について解説します。
基本的な道具一覧
金継ぎに必要な基本道具をまとめました。
| 道具 |
用途 |
価格の目安 |
| 細筆(蒔絵筆・面相筆) |
漆を塗ったり金属粉を蒔くために使用。細さの異なる数本を揃えると便利 |
1本300〜2,000円 |
| ヘラ・パレットナイフ |
漆を混ぜたり、欠けた部分に埋め込む際に使用 |
500〜1,500円 |
| 漆用パレット |
漆を伸ばすための作業台。プラスチック板や陶器の小皿でも代用可 |
300〜1,000円 |
| 脱脂綿・コットン |
余分な漆を拭き取るために使用 |
200〜500円 |
| テレピン油(松節油) |
筆の洗浄や漆の希釈に使用 |
500〜1,000円 |
| マスキングテープ |
乾燥中に器のパーツを固定するために使用 |
100〜300円 |
| 耐水ペーパー(400〜1000番) |
硬化した漆の表面を滑らかに整えるために使用 |
100〜300円 |
| 使い捨てゴム手袋 |
漆かぶれ防止のため必須(特に本漆使用時) |
500〜1,000円(箱入り) |
道具を一式揃える場合、
基本セットで3,000〜8,000円程度が目安です。
乾燥環境の準備|本漆を使う場合のムロ
本漆を使う場合、乾燥のための
ムロ(漆用乾燥箱)が必要です。本漆は一般的な接着剤と異なり、湿度が高い環境で化学反応を起こして硬化します。
ムロの条件は、
湿度70〜80%・温度20〜25℃。専用のムロを購入する方法もありますが、身近なもので代用することも可能です。
段ボール箱の中に湿らせたタオルを入れ、器を置いて蓋を閉めるだけで簡易ムロの完成です。温度管理のために室内の暖かい場所に設置し、定期的にタオルの湿り具合を確認すれば、十分に機能します。
合成漆の場合は、常温・通常湿度で硬化するため、ムロは不要です。
初心者向けキットの選び方|失敗しない3つのポイント
初めて金継ぎに挑戦する場合は、必要な素材と道具がすべて揃ったキットが便利です。選ぶ際は以下の3つのポイントを確認してください。
1. 食品衛生法対応かどうか
修復した器を食器として使いたい場合は、必ず「食品衛生法対応」と明記されたキットを選びましょう。
2. 本漆か合成漆かを確認する
初心者には合成漆のキットがおすすめです。本漆のキットは本格的な仕上がりが得られますが、ムロの準備やかぶれ対策が必要です。
3. 説明書・動画マニュアルの充実度
手順がわかりやすく解説されているキットを選ぶと、初めてでも安心して取り組めます。動画マニュアル付きのキットなら、実際の作業イメージがつかみやすいです。
キットの価格帯は
2,000〜10,000円程度。まずは手頃なキットで基本を学び、技術に自信がついてから素材を個別に揃えてステップアップするのがおすすめです。
よくある質問(FAQ)

金継ぎの素材と道具について、よくいただく質問にお答えします。
Q. 本漆でかぶれたらどうすればいいですか?
本漆によるかぶれは、体質によって症状の出方が異なります。
かぶれた場合は患部を水で洗い流し、皮膚科を受診してください。金継ぎを行う際は必ず使い捨てのゴム手袋を着用し、肌に直接触れないよう注意しましょう。かぶれが心配な方は、まず合成漆で始めることをおすすめします。
Q. 金粉と真鍮粉では見た目にどれくらい差がありますか?
金粉はより本物の金に近い輝きと色味を持ち、経年変化でも光沢を保ちます。
真鍮粉は少し赤みがかった金色で、時間とともにやや変色することがあります。日常使いの器の練習には真鍮粉で十分ですが、大切な器の本格修復には金粉がおすすめです。
Q. 金継ぎの素材はどこで購入できますか?
金継ぎの素材は、
陶芸店・画材店・ネット通販で購入できます。初心者の方はまずキット形式の商品から試すのがおすすめです。本格的な本漆は、漆専門店や陶芸材料店で取り扱っています。Amazon・楽天などの通販サイトでも金継ぎキットが豊富に揃っています。
Q. 金継ぎの素材と道具を全部揃えるといくらかかりますか?
合成漆のキットなら
2,000〜10,000円で素材と道具が一通り揃います。本漆を使う場合は、漆・金粉・筆・ムロなどを個別に揃えると
10,000〜30,000円程度が目安です。金粉の種類と量によって費用が大きく変わります。
Q. 食器に使って安全な素材の見分け方は?
食器に使う場合は、
「食品衛生法対応」と明記された漆製品を選んでください。本漆は完全に硬化すれば安全です。金属粉は純金粉・銀粉が安全で、真鍮粉は食器には不向きです。不安な場合はプロの金継ぎ職人に依頼するのが確実です。
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まとめ|金継ぎの素材選びは「用途」と「レベル」で決める

この記事では、
金継ぎに使う素材と道具について、種類・特徴・費用・選び方を詳しく解説しました。
大切なポイントを整理します。
- 漆は「本漆」と「合成漆」の2種類。食器使用なら本漆、練習なら合成漆が現実的
- 金属粉は金粉・銀粉・真鍮粉の3種類。器の色や用途に合わせて選ぶ
- 金粉は1gあたり5,000〜15,000円。真鍮粉は練習用に最適だが食器には不向き
- 基本道具は細筆・ヘラ・パレット・テレピン油・マスキングテープなど
- 本漆を使う場合はムロ(乾燥箱)が必要。段ボール箱で代用可能
- 初心者はキット(2,000〜10,000円)から始めるのがおすすめ
- 食器として使う場合は、必ず食品衛生法対応の素材を選ぶ
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